2007年04月12日
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シャーペンキッド 第1話「シャーペンキッド誕生」第1稿

Written By: 遠野秋彦連絡先

登場人物

シャーペンキッド(SK) = 木戸シャープ

ルミちゃん

ナレーター(N)

● SK自室

 制服姿で部屋に入ってくるSK。(学校帰りを印象づける)

SK「ふう。疲れた」

 SKパソコンの前に座る。

SK「さて、抑圧された僕の知性を解放してやるとするか」

 SKパソコンを操作。

 パソコンの画面に「闘鶏12ちゃんねる」という掲示板が表示される。

SK「今日も馬鹿な論客が鶏のように論戦してるかな」

 驚くSK。

SK「新しい話題が出ているな。なになに……。シャーペンソース? パソコンソフトの話? タダでコピーして良くて、自由に改良することもできて、しかも有料ソフトよりも優秀?」

 SKあざける表情になる。

SK「そんな都合の良い話、あるわけないだろ。それぐらい常識で解れよな。それをコロッと信じ込むからみんな馬鹿なんだよ」

 SKパソコンに乗り出す。

SK「それじゃ、突っ込み入れながら読んでやるか……」

 パソコンの画面を見ながら凝固するSK。

 SK感動の表情。背景もパッと明るいイメージに変わる。

SK「シャーペンソース、これは本物だぜ。これを信じない奴はバカだ!」

SK「たった今から、僕は変わるぞ」

 腕を上に突き出すSKを上から見た映像が効果音と共に拡大される。

SK「もう、木戸シャープの名は捨てる。今日から僕は、シャーペンキッドだ!」

SK「もっとシャーペンソースのことを勉強しよう。そして、明日になったら、学校の連中にシャーペンソースのことをたっぷり教えてやろう。きっとみんな感謝感激してくれて、それからいつもレオタードを着ている新体操部のルミちゃんも僕のことに惚れちゃうかもしれないな……」

 SK身体をもだえさせる。

SK「いや~ん、うふ~ん」

 一瞬でスパッと切って、次のシーンへ。

● 翌日の学校

ルミ「あ、木戸君」

SK「え、まだシャーペンソースのこと何も言ってないのに、どうしてルミちゃんが僕に話しかけるんだ? そうか、シャーペンキッドになった僕は尊敬される立派な人間になったはずだ。きっと、人を惹き付けるオーラを放っているに違いないぞ!」

ルミ「なにを電波系みたいにぶつぶつ言ってるの?」

SK「あ、いや。何でもないよ。それより、今日の僕は違うって、ルミちゃんにも解ってしまったのかな?」

ルミ「私にっていうか、クラスの全員がもう気付いていると思うわよ。ほら、みんなあなたのこと見てるでしょ?」

SK「ええっ。そうなのか。シャーペンソース、ありがとう! ルミちゃん、それにクラスのみんな。生まれ変わった僕のことはシャーペンキッドと呼んでくれ!」

ルミ「そう呼んで欲しければ呼んであげてもいいけど……。本当にいいの?」

SK「ええっ。それどういう意味? 僕はみんなに尊敬されるシャーペンキッドになったはずだろ?」

ルミ「いやあね。そんなにそのファッションに自信があったの?」

SK「ファッション……?」

 カメラが引いていくと、SKの服装として、制服の上着にパジャマのズボンが見える。

SK「しまった! シャーペンソースに夢中になりすぎてズボン履き替えるのを忘れた!」

ルミ「そのファッションで尊敬されるのは無理だと思うわ」

SK「あわわわ」

ルミ「でも、そこまで木戸君を夢中にさせるシャーペンソースにちょっと興味が出てきたわ。もっと詳しく教えてくれる?」

SK「えええっ。まさか、本当に? あのクラスで一番の美少女のルミちゃんがシャーペンソースに興味があるって? もちろん教える。教えるよ!」

ルミ「じゃ、まずどこのスーパーで売ってるか教えて」

SK「スーパー?」

ルミ「で、どういう料理に使うと美味しいソースなの?」

SK「いや、ルミちゃん。シャーペンソースは調味料のソースじゃなくて、パソコンソフトの知的所有権が自由で安全性と品質が……」

ルミ「えっ。食べ物じゃないの? じゃ、興味ないわ。ばいばーい」

 衝撃を受けるSK。

ルミ「あ。そうそう。木戸君、変なファッションは気が散ってしょうがないから、早くズボンを着替えてきてね……」

 ルミ、立ち去る。

SK「る、ルミちゃん。そんなぁ……」

 一瞬で幕が下りてスパッと終わる。

第1話END

(遠野秋彦・作 ©2007 TOHNO, Akihiko)

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